夕刻…本日は珍しく早く仕事を切り上げられた紅炎が帰路についた。実際当初は一日休みだったのだが、そこは会社を運営する者の義務…何か問題が一つでも起こればそれにあたらなければならない。勿論信頼出来る者に任せることもあるが、今は取引等の関係で微妙な時期なのだ。そのため些細なことでも皆紅炎に指示を仰ぐことが多い。そうした事情があるためここ最近は特に休息無く紅炎は働き詰めであった。そこへきてのようやっとの時間…まあ夜時しか無いのだが…が取れ、紅炎は自身の住まいへと身体を戻したのだ。



そうして紅炎がリビングへ続く扉を開けた瞬間、見慣れた金色が視界に入ってきた。

「あ、お帰り紅炎さん」
「…また来たのか」

紅炎は呆れたようにそう零し、身に着けていたスーツを乱していく。上着を脱ぎネクタイを緩めシャツの釦を二つ程外した紅炎は、リビングの机の前に座る金色…アリババのもとへと歩みを進めた。


「おまえは今受験生の筈だが?」


暗にこんな所に居て良いのかと問う紅炎にアリババは唇を尖らせた。


「受験生って言ってももう受かってるし…」
「だからといって勉学を怠っても良い理由にはならん」


間もなく冬に差し掛かる現在、受験生にとっては頭に知識を詰め追い込む時期なのだが、既に希望する大学に受かっているアリババには関係の無い話であった。進学先である大学から幾つか課題は出ているが、それと受験への心持ちは違うに決まっている。

だが紅炎はそんなアリババに対しピシャリと言葉を放つ。それが正論であるが故にアリババも二の句を告げることが出来なくなる。そんなアリババを見下ろしながら、紅炎は「それに…」と、口の端にフッと笑みを刻んだ。


「おまえは将来俺の会社で働くんだろう?なら励め」
「……う、ずるいです」


くつくつと喉を震わせる紅炎にアリババが僅かに赤くなる。頬に朱を刷ったアリババの近くに腰を下ろし、紅炎は再び口を開いた。


「どうせ何かしら教科書を持ってきてるんだろう?今なら教えてやれるが」
「え、でも」


さっさと教科書を出せと促す相手にアリババは戸惑いを見せる。アリババとて紅炎が忙しい身だというのは重々承知している。特にここ最近紅炎が自宅にろくに帰れていないことも知っているのだ。そんな人が自分のために貴重な休息を割いてくれるという。躊躇うアリババに紅炎が僅かに目を細めた。

「不必要な遠慮などするな」
「不必要、って」
「俺は迷惑ならば迷惑だと言う。そもそも自ら不利益を被るような人間ではない」


おまえもよく分かっている筈だと口にする紅炎にアリババは頷いた。それでもそんな言葉でさえ優しく感じられるのだから末期だなぁ、と、アリババは溢れる感情を思いつつ苦笑した。



「それじゃあここ教えて下さい」
「ああ」
「…紅炎さん」
「なんだ」
「好きですよ」
「知っている」
「ふはっ」


ああ早くこの人の下で働きたい。
いつか来るであろうその時を描きながら、アリババは静かにシャープペンシルを滑らせた。






***




相互記念としててーとちゃんこと月影帝兎さんへ捧げます炎アリです。

非常に面白みの無いお話で誠に申し訳ないです!すみません!てーとちゃんからはあんなにも素晴らしい炎アリを頂いたというのに私は…くっ、本当にすみません(土下座)

設定としては社会人紅炎さん×近所に住む学生のアリババくんです。アリババくんは紅炎さん宅の合い鍵を持っているので、頻繁に紅炎さん宅に突撃しています。ここで説明していて申し訳ないです。苦情はいつでもどうぞ!


それでは本当にありがとうございます!

(針山うみこ)